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横浜地方裁判所 昭和61年(行ウ)2号 判決

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して昭和六〇年四月三〇日付けでした昭和五五年一〇月一日から昭和五六年九月三〇日までの清算中の各事業年度清算所得の法人税額等の決定及び無申告加算税賦課決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  株式会社創和設計(以下「破産会社」ということがある。)は、昭和五四年一二月二六日、横浜地方裁判所において破産を宣告され、原告はその破産管財人に選任された。

2  原告は、直ちに破産会社の財産を占有して逐次この処分をなし、昭和五五年一〇月一日から昭和五六年九月三〇日までの間に、土地建物の売却により六億四七〇〇万円、その他利息等により二九四万三九六三円の収入を得た。

3  被告は、破産管財人にあっても法人税法一〇二条一項に基づき、当該事業年度の所得を、解散していない内国普通法人等の各事業年度の所得とみなして計算した場合における当該事業年度の課税標準である所得金額を一定期間内に申告し、同法一〇五条によりその所得に対する法人税額を予納する義務があるものと解し、前項の所得金額から所要の経費を差し引き、かつ、売却した土地代金についての法人税額については、租税特別措置法六三条により、取得後一〇年以内の処分として二割の重課を加算して、全部の法人税額を計算し、昭和六〇年四月三〇日付けで昭和五五年一〇月一日から昭和五六年九月三〇日までの清算中の各事業年度(以下「本件事業年度」ということがある)。の清算所得に対して、法人税額を八二六〇万六二〇〇円とする決定処分及び無申告加算税八二六万円の賦課決定処分(以下、まとめて「本件処分」という。)をした。

4  しかしながら、前記各法条は破産管財人には適用がないと解すべきであり、被告の本件処分は違法である。

(一) 法人税法一〇二条は「清算中の所得」を「清算中の各事業年度」ごとに申告することを内国普通法人等に命じたものであるところ、「清算」とは、民法、商法その他一般の法規に用いられている清算と同様、法人の解散に伴い、法定の手続によって選任される清算人の手によって行われる一連の手続を指すものであり、民法七四条、商法四一七条により、法人の破産(会社においては合併も含む)以外の場合に開始される手続である。

したがって、法人税法一〇二条の「清算」に破産は含まれていないと解すべきであり、破産手続を強制換価手続としている国税通則法二条一〇号の規定からみても、破産手続中の法人と清算中の法人とを同視することはできず、法人税法一〇二条及びこれに基づく同法一〇五条の規定は破産法人には適用がないと解すべきである。

(二) 法人税法の清算所得の規定は、解散によって開始される清算手続の結果残余財産が生じた場合に、これを出資者に還元するに際して、その一定部分を清算所得として把握し、課税しようとするものであるが、破産は本来、法人について清算所得が生じるどころか、債務さえ完済し得ないことを基本的な理由として宣告されるものであり、破産手続の中途において資産をもって債務を完済し得るような状態になったとすれば、それは、破産宣告自体が誤りであったか、あるいは破産宣告後に資産価値の上昇等事情の急変があったかのいずれかの場合であり、そのような場合には破産は申立てにより廃止されるか、あるいは残余財産について改めて清算人を選任して清算手続に入るかのいずれかになるのであるから、破産手続が維持されている限り、清算所得が生じるというようなことはありえないのであり、破産と清算所得とは基本的に相入れない観念であるというべきである。

(三) また、清算中の会社については、商法四二〇条により、解散後も各営業年度毎に計算書類を作成し、これを総会に報告することを清算人に命じているから、清算会社には営業年度の定めが存続し、年度毎の税法上の義務も清算人の履行しなければならない義務とされていることが明らかである。これに対し、破産管財人は、内国普通法人の代表者または代理人の地位にあるものではなく、国税徴収法二条一三号により強制換価手続の執行機関とされていて、法人と対立する第三者の地位にあり、その権利義務を定める破産法は、破産法人についての破産管財人の計算報告は必要の都度債権者集会または裁判所に対して行う旨定めており、破産管財人が営業年度について何らかの顧慮をしなければならないような義務は定められていないから、法人税法の前記義務を法人とは別人格の破産管財人が履行しなければならない根拠はないというべきである。

(四) そして、破産手続を強制換価手続とし、破産管財人をその執行機関としている国税通則法、国税徴収法等の規定からみても、破産法人は税法上明らかに強制換価手続中の法人であって、清算中の法人ではないと解すべきであるから、法人税法の清算所得の規定は破産法人には適用がないというべきである。

なお、破産財団が債務を超過するような希有な場合には、債務完済後選任される清算人が破産管財人からその財産を引き継いで、法人税法上の義務を履行することになると解すべきである。

5  原告は本件処分に対し、昭和六〇年六月一七日東京国税局長に異議を申立て、同局長は同年九月一二日右申立を棄却したので、原告は更に同年一〇月九日国税不服審判所長に審査請求をしたが、未だ裁決がない。

6  よって、原告は被告の本件処分の取消しを求める。

二  請求の原因に対する被告の認否

請求の原因1ないし3及び5の事実はいずれも認める。同4及び6は争う。

三  被告の主張

1(本件処分の経緯)

本件処分は別表1記載のとおりの経緯によりなされた。

2(本件処分の根拠)

(一)  株式会社創和設計の解散

破産会社は昭和五四年一二月二六日横浜地方裁判所において破産宣告を受けて解散し、昭和五五年二月二〇日付けで右解散の日の属する事業年度(昭和五四年一〇月一日から同年一二月二六日まで)の確定申告書(破産会社破産管財人森英雄名義)を被告に対して提出した。

(二)  本件事業年度における清算中の所得金額及び法人税額

(1) 破産会社破産管財人(以下、単に「原告」という。)は破産手続の一環として、本件事業年度中に破産会社所有の土地等を他に譲渡し、これによって破産会社に多額の土地等売却収入を得させた。

(2) しかるに原告は、解散の日以降の清算中の事業年度について、被告に提出すべき清算中の所得に係る予納申告書を提出しなかった。

(3) そこで被告は、前記解散の日の属する事業年度の、確定申告書に添付されている昭和五四年一二月二六日の貸借対照表、預金通帳、現金出納帳、その他の関係資料及び原告の申立等に基づき、破産会社の本件事業年度における貸借対照表(別表2)及び損益計算書(別表3)を作成して、破産会社の本件事業年度における清算中の所得の金額を一億二三四七万七八〇〇円(別表3番号〈32〉と算定し、右所得金額(但し、国税通則法一一八条一項の規定により千円未満切捨て)に一〇〇分の四〇を乗じ(昭和五六年法律第一二号による改正前の法人税法六六条)、法人税額を四九三九万八〇〇円と算出した(法人税法一〇二条一項一号、二号)。

(三)  土地譲渡益重課の対象となる土地譲渡利益金額及びこれに係る法人税額

(1) 破産会社の本件事業年度における清算中の所得は、前記のとおり、原告が本件事業年度中に破産会社所有の土地等を他に譲渡したことにより生じたものであるが、このうち横浜市中区本町四丁目三八番所在の土地二六四・二九平方メートル、同区北仲通四丁目五四番所在の土地二六六・五七平方メートル、同区竹之丸一六番一〇所在の土地一五七・八二平方メートルの譲渡は、昭和四四年一月一日以後に他の者から取得した土地の譲渡であり、その譲渡益は重課の対象となるものである(昭和五七年改正前の租税特別措置法六三条一項一号)。

(2) そこで被告は、右土地の譲渡につき課税土地譲渡利益金額の計算明細表(別表4)を作成して、課税土地譲渡利益金額を算定し(別表4番号12)、この合計額一億六六〇七万七〇〇〇円(但し、千円未満切捨て)に一〇〇分の二〇を乗じ、これに係る法人税額を三三二一万五四〇〇円と算出した。

3(本件処分の適法性)

(一)  以下4で述べるとおり、破産会社にも法人税法一〇二条、一〇五条は適用されると解すべきであるから、本件法人税額等決定処分及び本件無申告加算税賦課決定処分はいずれも以下のとおり適法である。

(二)  本件法人税額等決定処分の適法性

破産会社が納付すべき税金額は、前記2の(二)の法人税額四九三九万八〇〇円と、前記2の(三)の法人税額三三二一万五四〇〇円の合計額八二六〇万六二〇〇円であるところ、本件法人税額等の決定処分によって破産会社が納付すべきであるとされた税額はそれと同額であるから、本件法人税額等の決定処分は適法である。

(三)  本件無申告加算税賦課決定処分の適法性

被告は、本件法人税額等決定処分により破産会社が納付すべきこととなった税額八二六〇万六二〇〇円を、国税通則法六六条一項の規定に基づく無申告加算税の計算の基礎となる税額(但し、同法一一八条三項の規定により一万円未満切捨て)とし、これに一〇〇分の一〇の割合を乗じて無申告加算税額八二六万円を算出して賦課決定したものであり、原告が法定の期限までに申告書を提出しなかったことについて正当な理由が認められないから、本件無申告加算税賦課決定処分は適法である。

4(破産会社の予納申告について-被告の主張)

(一)  解散した内国普通法人等の清算中の所得に係る予納申告を定めた法人税法一〇二条及びこれに基づく同法一〇五条の規定は破産会社にも適用されるべきものである。

(二)  法人の解散と「清算」の概念

法人の解散は法人の権利能力の消滅をきたすべき原因となる事実であるが、解散と同時に法人の権利能力が消滅することになると極めて不都合な結果を生じるので、法人の解散後も既存の法律関係の整理、残余財産の処理のために、その範囲内においてなお法人は存続するものとする必要があり、法人の解散に関する諸法規は、解散した法人も既存の法律関係の整理、残余財産の処理という目的の範囲内においてなお存続するものとみなす旨を明記している(民法七三条、破産法四条、商法一一六条、四三〇条)。

右各規定においては、「清算」という用語は、広義と狭義の二通りの意味に使われており、広義では、法人が解散した後になされる既存の法律関係の整理、残余財産の処理のための手続一般を指し、狭義では、右手続のうち清算人の手によって行われる手続を指している。そして、「清算」という用語を狭義で用いる場合には、解散事由のうち清算人が選任されないものである合併、破産の場合を除く旨が明記されている(民法七四条、商法一二〇条、四一七条一項)。

(三)  法人税法における清算概念

(1) 法人税法は、内国法人に対し、その各事業年度の所得(法人税法六条)及び清算所得(同法五条)を法人税の対象とする旨を明らかにしており、法人の解散により生じた利益、すなわち清算利益とは、解散した法人の資産の額から負債の額を控除した額を基にして、その額から解散時における資本等の金額と利益積立金額等との合計額を控除したものをいうが、資産額から負債額を控除した金額を把握するための手続は、合併による解散とそれ以外の事由による解散の場合とでは著しく異なる。そこで、法人税法は、第二編第三章において清算所得についての詳細な規定を設けるにつき、合併以外の事由による解散の場合と合併による解散の場合とをその第一節と第二節に区分して、清算所得の計算方法等につきそれぞれ別個の定めをなしているのである。

そして、法人税法は清算所得に関する諸規定において清算という用語を使っているが、右諸規定中には解散事由から合併及び破産を除く旨の定めは全く存在せず、右諸規定中特別の扱いがなされている解散事由は合併のみであり、それも清算所得の計算方法等につきそれ以外の事由による解散の場合と別の定めをなしているに過ぎず、清算所得に関する規定の適用を全面的には排除していないのである。

法人税法における右諸規定の設け方と、民法、商法における規定の設け方を比較するならば、法人税法は清算という用語を狭義では用いていないというべきであり、破産を含むことは明らかである。

(2) また、原告は、法人に対する破産宣告が債務超過を原因としてなされることから、破産と清算所得は基本的に相入れない観念である旨主張するが、破産宣告は、宣告時において破産原因が存在することに基づいてなされるものであり、その後の破産手続過程における事情変更、すなわち、資産価値の上昇等による積極財産の増加または債務免除等による消極財産の減少により破産原因が消滅する場合もあるのであるから、一旦解散した法人が再び継続する場合のありうることは、破産以外の事由により解散(合併を除く)した法人と同様であり、法人税の予納制度が清算事務の長期化による課税の遅延の防止及び一旦解散した法人が再び継続した場合に対する対処をするために設けられたものであることに照らせば、破産法人も予納義務を負っていることは明らかである。

(四)  破産法人の土地譲渡益に対する重課

法人の土地譲渡益に対する重課制度は、土地譲渡益に対して法人税として特別の課税を行うものであり、租税特別措置法(以下、単に「措置法」という。)六三条は、右制度を設けるにつき新たに特別な課税標準を定めることをせずに、法人税の税額計算の特例という形をとり、通常の法人税の税額に土地譲渡益に対する重課分の税額(譲渡利益金額の一〇〇分の二〇)を加算することにしている。したがって、土地譲渡以外の所得がマイナスであっても、土地譲渡がプラスである以上重課がなされるのである。

そして、清算所得が法人税の対象となり、破産により解散したときも法人税の予納制度の適用があることは前記のとおりであるから、破産法人も右重課制度の適用対象法人であり、措置法六三条三項が短期所有土地等の譲渡について、土地譲渡が単に強制換価手続あるいは破産手続によってなされたということだけでは適用除外を認めていないことからすれば、破産法人が、破産手続により、短期所有土地等の譲渡をなした場合には当該譲渡益に対して当然に重課がなされることになるのである。

(五)  破産管財人の職務

原告は、破産管財人が破産法人とは別人格であることを理由に破産管財人には予納法人税に係る申告納付義務がない旨主張するが、右義務の履行を担当すべき者は破産管財人以外には存在しない。

すなわち、破産宣告前の代表取締役は、会社の破産により当然取締役の地位を失い、代表権を有していない。破産会社には破産財団に属しない財産が形成される余地はなく、破産会社は破産財団に属する財産を基盤としてのみ存在するのであるが、破産会社の存在基盤である破産財団の管理処分権は破産管財人に専属するところ、予納法人税を支出するのは破産財団であるから、この申告納付をする者は破産管財人より外にないこととなるのであって、原告の主張は失当である。

(六)  国税通則法、国税徴収法の規定について

原告は、国税通則法(以下、単に「通則法」という。)及び国税徴収法(以下、単に「徴収法」という。)が破産手続を強制換価手続と定義しているから、破産法人は税法上強制換価手続中の法人であり、清算中の法人ではないから、法人税法の清算所得に関する規定は、破産手続による所得に適用されない旨主張する。しかしながら、通則法二条及び徴収法二条は、各同法のなかで特別な意義をもって用いられている用語の定義を明らかにするための規定であり、右各法規において、強制換価手続という用語を用いている各規定(通則法三八条、三九条、徴収法第二章、八二条等)は、いずれも国税の徴収に関する規定であり、法人税の課税にかかわる規定ではないのであるから、右各同法の定義規定は法人税法の清算という用語の解釈においては何ら意味をもたないというべきであり、原告の主張は失当である。

四  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張1ないし3の本件処分の経緯、本件処分の根拠及び本件処分の適法性のうち、その事実関係及び計算関係はすべて認め、本件処分が適法であるとの主張は争う。

被告の主張4項のうち、破産会社についても法人税法一〇二条及び一〇五条の規定が適用されるとの主張はすべて争う。

なお土地譲渡益に対する重課部分についても、破産会社については前提として清算所得に対する法人税の規定が適用されず、措置法六三条が破産会社に適用される旨の特別の規定がない以上、破産会社の破産手続において、右重課制度が問題とされることはないというべきである。

第三  証拠の提出関係〈省略〉

理由

一  本件処分に係る事実関係及び計算関係についてはいずれも当事者間に争いがない。

二  本件処分の違法性についての当事者間の争いは、もっぱら、破産会社について法人税法一〇二条、一〇五条の規定の適用があるか否か、破産管財人に清算所得にかかる予納法人税の申告義務があるか否かの点にあるので、以下、この点について検討する。

三  法人税法は、内国法人の課税所得の範囲として各事業年度の所得及び清算所得をあげ、内国普通法人等に対しては、当該法人等が継続し又は合併により消滅した場合を除いて、各事業年度の所得について各事業年度の法人税を課さないものとし、清算所得が存した場合には清算所得に対する法人税を課することとしている(法人税法五条、六条)。そして、清算所得に対する法人税については予納税の制度が設けられており、内国普通法人等は、清算中の各事業年度に所得がある場合にはこれを解散していない法人の所得とみなして法人税額を計算し、当該金額に相当する法人税を納付しなければならない(同法一〇二条、一〇五条)としている。この予納法人税は、清算所得が存する場合には、清算所得に対する法人税として納付したものとして扱われ、清算所得が存しないときには還付され、また、当該法人が継続した場合には、清算中の各事業年度の所得に対する法人税とみなされるものである(同法一〇四条、一〇八条、一一〇条、一一九条)。

また、措置法は法人が同法六三条一項の土地の譲渡等をした場合には、当該法人の清算所得に対する法人税の額は、本来の法人税額に、当該土地譲渡等にかかる譲渡利益金額の合計額を基礎とし、清算所得に対する法人税の額とは別途計算したうえで(譲渡利益金額の合計額の二〇パーセントの金額)、本来の法人税額に上乗せして加算した額とする旨規定している。したがって、清算中の法人が同条一項の土地の譲渡等をし、譲渡利益金額が生じた場合には、清算所得が存しないときにも右土地重課税を納付しなければならず、予納法人税のうち、土地重課税に係る部分は、原則として還付されないこととなる。

清算中の法人の課税関係をどのようにするかについては、残余財産の価額が最終的に確定し、最後の配分を行う時点で一括して課税を行う方法、清算期間中の各事業年度が終了するごとに清算所得を仮計算して課税する方法等、種々の方式が考えられるが、どのような課税方式を選択するかは立法政策上の問題であり、現行法人税法は、清算中の各事業年度ごとに残債整理、財産処分等に伴って生ずる所得について、各事業年度の所得に対する課税に準じた清算所得に対する課税(予納申告、納付)を行うこととし、最終的に残余財産が確定したときに、清算期間全体を通じて清算所得に対する法人税額を計算し、予納額を充当、還付するという方式をとっている。法人税法が右のような段階的課税方式をとっている理由は、解散した法人の事務が相当長期間に及ぶことによって清算所得に対する課税が著しく遅延することによる課税の不均衡及び恣意的な納税の遅延に対処するとともに、一旦解散した法人が再び継続するにいたった場合等に、継続が確定した時点で遡って各事業年度に対する課税を行うことによって課税の空白が生じることを防止する趣旨にあると解せられる。

四  そこで、法人税法第三章第一節中の解散の場合の清算所得に対する法人税に関する諸規定が破産会社に適用があるか否かについてみるに、同法九二条が、解散事由のうちから特に「合併による場合を除く」としているのみで、その余の解散事由については特に除外することなく一般的にその清算所得に対する法人税の課税標準を定めており、合併については別途規定を設けている(第三章第二節)こと、九二条以下の規定においても、特に除外規定を設けることなく、解散をした場合の清算所得というように一般的に定めていることなどから判断すると、第三章第一節の諸規定は、解散事由から破産を除外するものではなく破産会社にも適用があると解さざるを得ないというべきである。破産による解散の場合は、清算人による清算手続に代わり、より厳格な清算の手続ともいうべき破産手続が行われることになるのであり、破産手続も一種の清算手続とみられるのであって、次に検討するように破産手続が債務超過を理由としてなされるものであるからといって、当然に清算という観念と相入れないものであるということはできない。したがって、予納法人税の各規定も破産会社に適用されるものと解するのほかない。

原告は、法人に対する破産宣告が、本来法人の債務超過を理由としてなされるものであるから、破産会社においては清算によって残余財産が生じるようなことは基本的にはありえず、清算所得と破産とは相入れない観念であるから、清算所得に対する課税を規定した法人税法第三章の規定は、当初より破産による解散の場合は除外されている旨主張する。

破産会社において清算所得が生ずることが極めて例外的なことであることは否定し難いところではあるが、資産価値の上昇等による積極財産の増加、債務免除等による消極財産の減少等により、清算所得が生じることがあることも十分考えられるところである。そして、法人税法の前示各規定、予納申告制度をとっている現行法の趣旨に照らすと、このような例外的な場合に備えて予納法人税の債権を財団債権として破産債権に優先して徴収できるとすることの当否はともかくとして、課税手続について、清算所得に対する法人税の諸規定から破産による解散の場合が除外されていると解することはできない。

また、原告は、通則法二条及び徴収法二条が、破産手続を強制換価手続であると定めていることから、破産会社は税法上強制換価手続中の法人であって、清算中の法人ではない旨主張する。

しかしながら、通則法二条及び徴収法二条の各規定は、いずれも当該各法の規定中の用語の定義を明らかにする規定であり、徴収法中の規定はもちろん、通則法中、強制換価手続という用語を用いた規定(通則法三八条、三九条)は、いずれも強制換価手続の際の国税の徴収について定めたもので、法人税の課税一般についてまで、右各同法にいう強制換価手続の場合を特別に扱うことまで予定した規定ではないのであるから、破産手続を強制換価手続と定義している通則法二条及び徴収法二条の規定をもって、破産会社が清算中の法人にあたらないとすることはできない。

更に、原告は、破産管財人には法人税法一〇二条及び一〇五条が定める予納申告、納付の義務がないこと、そして、破産会社には右予納義務を行うものがいないことからも右各規定の適用がないと解すべきことを主張するのでこの点について検討する。

同法一〇二条及び一〇五条は内国普通法人等が予納申告、納付を行うべき旨規定しているが、破産会社は破産により解散し、破産の目的の範囲内において存続し、破産会社は破産財団のみをその存立基盤としているものであるところ、破産宣告により法人の代表者は、破産財団に対する管理処分権を失っており、右管理処分権は破産管財人に専属する(破産法七条)。そして、租税の申告納付は破産財団の管理処分の一環とみることができるのであるから、破産管財人に破産会社の法人税の予納申告、納付の義務があるというべきであって、この点についての原告の主張は理由がない。

以上のとおりであるから、現行法の解釈としては法人税法一〇二条及び一〇五条の規定は破産会社にも適用があると解するのが相当である。

五  なお、以上のように解すると、破産会社の清算所得については多くの場合、予納申告、納付のうえ、その還付を受けるという不合理な手続をとることになり、無意味に破産管財人の負担を増加することになるのではないかということが問題となるが、破産会社の破産宣告後の法人税のうち、措置法六三条一項の規定による加算部分を除いた部分(以下「一般部分」という。)の債権は破産法四七条二号但書にいう「破産財団に関して生じたるもの」には当たらず、財団債権に当たらないと解されるのであって(最高裁昭和六二年四月二一日第三小法廷判決・民集四一巻三号三二九頁)、財団債権に当たらない以上、破産管財人は右一般部分を破産手続によらずに支出することはできなくなり(破産法四九条)、また課税庁が破産債権に優先してこれを徴収することもできないのであり、実際上予納法人税の納付、還付というような手続を取る必要が生じることは少ないと考えられる。

したがって、右一般部分に関する限り、予納法人税の制度は、実際上課税権の行使、すなわち租税債権を確定させる権利の行使としての意義を有するに過ぎないことになるが、破産清算において残余財産が生じ、または破産会社が継続することは極めて例外的であるといっても生じることがあることであり、このような場合に備えて、租税債権を確定しておくことを無意味なものとして否定すべき理由もないというべきである。

一方、措置法六三条一項による土地重課部分は、清算中の各事業年度の土地譲渡等による譲渡利益金額を基礎として別途計算されるものであるから、財団債権に当たり、当該土地が別除権の目的となっている場合には譲渡利益金額から別除権者に対する優先弁済部分を控除した金額を基礎に計算される土地重課に相当する部分のみが財団債権に当たるのであって(前掲最高裁判決)、右財団債権に当たる部分は破産手続によることなく随時弁済を受けることができることになる。そして、措置法は、土地重課部分を清算所得に対する法人税額に加算するという方法をとっており、財団債権に当たる土地重課部分も清算所得に対する法人税の予納として扱われ、かつ実際の納付、徴収ということも問題となるのであって、この場合には、予納法人税による課税権の行使は、租税の徴収権の行使の前提としても意義を持つことになる。

したがって、法人税の一般部分について実際には租税の徴収権の行使ということが考えられる場合が少ないことを考慮しても、破産会社に、法人税の予納申告制度を適用して、予納申告、あるいは賦課決定によって、租税債権を確定させることが全く意味がないとはいえないのであって、租税債権の確定を目的としてなされた本件処分が、違法であるということはできない。

六  以上のとおりであるから、法人税法一〇二条及び一〇五条の規定が破産会社には適用されないことを前提として、本件処分が違法であるとする原告の主張は理由がなく、法人税法、措置法及び通則法の規定に従って法人税額及び無申告加算税額を算出し(事実関係及び計算関係については当事者間に争いがない)、決定及び賦課決定をした本件処分は適法である。

七  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川上正俊 裁判官 竹田光広 裁判官 岡光民雄は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 川上正俊)

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